今週のお題「会いたい人」
故Pt. Pashupatinath Mishraグルジーのドゥルガー寺院での雨期のラーガMiyan Ki Malharの演奏は雷が落ちたような衝撃だった。2008年のこのときはまだ先生と生徒のような関係ではなかったが、この演奏で衝撃を受けたためにグルジーの元に通うようになったのだった。
私見ではグルジーは、ラヤカリと呼ばれるリズムとの即興に非常に優れていた。タブラー(インドの打楽器)を叩きながらレッスンをつけている人はグルジーしか今も知らない。パーンと呼ばれるインドの噛み煙草が好きでレッスン中もほとんどいつも口に含んでいて、この演奏のときも口に含んだと思う。
インドの音楽家も信仰から離れていく昨今、これはただの印象で何の根拠もないのだけどグルジーは信仰に篤かったインドの音楽家の最後の世代なのだろうと思う。グルジーはレッスンをつける部屋に入ると、自分の師やその師匠、そしてヒンドゥーの神々に祈りを必ず捧げていた。
グルジーの演奏はそのためか、寺院で行われるときが一番切れがあったし、コンサートホールでの演奏よりも気持ちが入っていた。音楽が神へと捧げるものだった時代の残滓が垣間見えるようなそういう気持ちの入った演奏が常に行われたのだ。私はこの信仰がグルジーの演奏に深みをもたらしていたのだと思う。そしてそれは今の私にはないものでもある。
この録音をお聞きいただけると、インドの祝祭の雰囲気であるただ美しいだけでなく、激しさにも楽しさにもあふれたそういう演奏があるのだということもおわかりいただけるかもしれない。
そういった演奏に惹かれて、グルジーの元に通うようになったバラナシでの2年は、私の人生の中で最も充実したひとときでもあった。